結果を出すための努力の仕方。
はじめに
22歳の時に初めて走ったフルマラソンで3時間を切った経験がある。これは市民ランナーのTop3%にはいる記録で、一つの目標とされている。高校時代に陸上部の長距離に所属していたが大学時代に運動とかけ離れていた自分が、練習を再開して3ヶ月で好記録を出せたのは決してまぐれでも実力でもなく「ゾーン」に入っていたからだ。
「ゾーンに入る」というのは、スポーツの世界でよく使われる言葉だ。これは極度の集中状態にあり、非常に前向きな気持ちで物事に取り組むことができる状態と言える。
このゾーンは、スポーツだけではなく勉強においても存在すると認識している。少し注意をしたいのは、ここでいうゾーンとは試合や試験中に一時的に起こるものではなく「日々の練習や勉強の態度」への集中具合として捉えてもらいたい。
このブログでは自分が過去に国家総合職で一桁合格したことでその経験からいかにして勉強すれば合格できるのかを記事に起こしてきたが、それ以上に「いかにして目標を達成する精神状態にするか」の方が重要で根本的な課題だと感じるようになった。そこで、勉強とスポーツで経験したこの体験のエッセンスをまとめあげておきたい。
タスクの失敗が目標の失敗に繋がるという錯覚
人間は不思議なことに「自分はこのままではいけない」と思う心の作用が働く動物だ。進歩を是として、停滞を悪とする本能が精神に根付いている。そこで、「何かに頑張ろう」「結果を出そう」と挑戦を何度もして、何度も挫折する。
例えばいまのび君は高校1年生で中間テストで学年120人中50位だったとする。そんな彼が「次の期末試験で学年一位を取る」と言うのは簡単だ。
のび君は次のテストまでの2ヶ月間毎日10時間勉強をすれば達成できるはずだと考える。
一念発起した一日目の月曜日。彼は朝4時50分のアラームで起き、2時間の勉強をする。朝食をすぐに済ませ、自転車で高校に通学、時間割は国語・数学・英語・体育・生物・日本史だ。体育以外の時間と間の休み時間に内職を続け苦手の英語にほとんどの時間を費やした。次の試験範囲の文法と英単語の勉強を繰り返し、部活動を終え帰宅。19時の時点で今日の勉強時間は6時間だ。
残りは4時間なので夜ご飯を食べ風呂に入り、すぐに勉強に取り掛かる。初日は英文法でまだ終わってない部分をスマホをいじりながら攻略し、23時50分なんとか10時間勉強を達成。24時30分にベッドに入りすぐに眠った。
次の日のび君は朝7時30分に起きた。鳴り響いたアラームは自分で止めた記憶すらない。学校に着いてからも眠気から授業の内容が頭に入ってこない。帰宅後2時間程度勉強し「明日のためにしっかり寝よう」とはやめの10時に就寝。
こののび君が次の期末試験で取る順位は何位だろうか?
彼は挑戦を開始して、確かに努力をした。一位は取れるだろうか?
最初に設定した10時間を達成できないために彼は途中で「1位を取ることは無理ではないか?」と感じるようになる。そうしてこの勉強の挑戦が1週間続くことはなかった。何が彼の努力を止めたのだろうか?
高校生なら試験対策のために一日10時間勉強をしてみるというのはわかりやすい目標でやってみた人も多くいるだろう。しかし、これでもうまくいった人とそうでない差はなぜ存在するのか。
10時間勉強というのは非常にわかりやすい数字で、そこには「達成したか否か」という2極がある。これは日々のタスクであり、目標ではない。目標はあくまでも「定期試験で1位を取る」などの今日明日に達成できないもので、だからこそ価値のあるもののはずだ。単純な努力というのは10時間勉強のような目先のタスクに目を奪われてしまいうことだ。そうすると、「タスクの失敗が目標の失敗に繋がると錯覚」してしまう。
結果に必要なもの
なぜのび君の努力が継続できないものなのかといえばタスクに追い詰められ「やらなければ自分はダメだ」という感覚に陥るためだ。強迫観念がうまく作用することはあるが、これではゾーンに入ることができない。ゾーンに入れば「毎日の勉強が楽しい」「寝る間も惜しんで自分からやりたくなる」というような精神状態になる。行動の中心が目標になるのだ。
そのために彼に足りなかったものを語るうえで、一度フルマラソンの話に戻ろう。
3ヶ月間の練習を始めるにあたり、常に意識していたことが「これが成功すればどれほどいいことがあるか」という妄想だ。
マラソンを友人と始めたため、初フルサブスリーはなかなかに価値のあるということはコミュニティー内の共通認識だった。そのため、「あいつやるやん」というふうにみてもらえるようになる。
これだけだとあまりに餌が少ないので自分なりにどんどん想像を膨らませてみる。なんだったら3時間と言わず、「いつの日か」2時間30分で走ってみれるような状況も想像してみる。
高校生ののび君でいえば「次の定期試験で1位を取る」ことを目標にする中で、例えばもし目標を達成したら親にバスケ部で使うシューズを新しく買ってもらうなどの約束をお願いしてみるのも手だ。また、気になる人に目標を達成した時に想いを伝えるというのを自分で決めておくのもいい。「これを達成した時の自分には自信がついているはず」という事実を使って何ができるかを考えておく。
とはいえ、これだけでは先の話で二日目からの寝不足からおきた勉強時間の減少を解決できない。そこで「目標」を決めてからは
・より小さな目標
・より大きな目標
を立てていこう。
方向修正のためのより小さな目標
先の話での導入部分で書いたが、
「のび君は高校1年生で中間テストで学年120人中50位だった」
「のび君は次のテストまでの2ヶ月間毎日10時間勉強をすれば達成できるはずだと考える。」
とあるように、のび君は多くのことを見落としていた。
別の言葉で書くと
49人自分より成績がいい学生がおり、彼らと自分の点数の差を認識していないのだ。
話を簡略化するため、主要科目の英語・数学・国語のみ各100点満点の試験としよう。
のび君は
英語が65点、数学が80点、国語が70点の合計215点だったとする。
それに対して、学年トップのでき君が
英語が95点、数学が97点、国語が98点の合計290点だったとしよう。
もちろんより多くの点数を取れれば話は別だが、単純に考えてしまうとのび君ができ君に勝つには、英語で30点、数学で17点、国語で28点の差を埋めなければいけない。
ここでのび君は10時間勉強をする前に考えてしまう。
「化け物じゃね?」
当然だ。235点ののび君からすれば290点のほぼ全ての科目で満点近い点数を出すでき君など雲の上の存在に見えてしまう。そして恐怖する。
「でき君はもしかすると次のテストで全教科満点取るのではないか?」
「一位はどうあがいても取れないのではないか?」
「そもそも勉強してもそんなに成績が上がらなくて無駄になるのではないか?」
これが努力を妨げる精神状況だ。しかし、実はこのよくある思考回路に成功の秘訣があると感じる。人間は失敗についてはトップダウンで具体的に考える癖があるが、成功についてはそうではない。
のび君は実はしずちゃんが好きで、「頭のいい人が好き」という彼女の言葉を聞いて一念発起した。そこでテストで一位をとってやろうというのが彼の本心だ。
ここで重要なことは、のび君に取ってはしずちゃんに気に入ってもらえれば順位などどうでもいいことだ。そして、しずちゃんに好かれうる人間という自信がない彼が勉強で結果を残したいと考えているということをしっかりと認識すればいい。
のび君はまず、「頭がいい」ということを学年1位としたが、もちろん学年5位だって頭がいいと言われるだろう(しずちゃんが2位でなければ…)。
少し落ち着いてまずこの学校で学年5位のスネ君が何点だったかを調べ、
英語が90点、数学が92点、国語が86点の合計268点だったとする。
「化け物」のでき君に比べれば、学年5位のスネ君は「オオカミ」くらいに見える。そう、まずは「これなら勝てるかな?できるかな?」と思える目標に切り替えることで人間はモチベーションが湧く。
さらに学年10位を調べてみると、ごう君が
英語が91点、数学が80点、国語が88点の合計259点だったとする。
つまり学年5位と学年10位の間には9点の差しかないが、学年1位と学年10位の間には31点もの差があるのだ。
テストという満点が存在するものからすれば、でき君の点数はのび君に数字以上の恐怖を駆り立てる。しかし、スネ君やごう君の点数ならば「多少ミスをしてもしっかり頑張れば達成できそう」と思えるだろう。
もちろんのび君は1位を目指していいのだが、こうして考えることで「心にゆとり」を持つことが大切なのだ。それは「多少の失敗は許される」ということに他ならない。
こうなればもはや一日勉強10時間というのは必要ないことがわかる。
「スネ君やごう君よりも勉強しつつ、でき君と同じくらい勉強してみよう」
と考え、でき君に一日の勉強時間を聞けばなんと授業の時間以外で3時間というではないか。
のび君は毎日、3時間1分勉強することを目標にした。
より大きな目標
「毎日でき君よりも1分以上長く勉強している」という日が2週間続いた時に、のび君は苦手だった英文法の試験範囲を3周していた。この時彼は明らかに勉強を開始する前に英語に対する苦手意識が薄れていることに気づく。
「あれもしかして僕できるやつじゃない?」
となった彼は、毎日勉強する最中に「2年後東京大学に合格する」自分を妄想するようになる。勉強が楽しいのだ。小さな成功体験と、妄想は希望を与える。
のび君は確かに今定期試験の順位を上げることを目標にしているが、その先を見るようになった。こうなればゾーンまでは近い。
ゾーンに入る時には、小さな日々の成功体験や実感とものすごく大きな目標が精神に良い影響を与える。東京大学の合格に比べれば学年1位は小さな目標に見えて来れば、でき君を化け物と錯覚することはなくなる。
努力の初期段階においては「こうしなければいけない」という重い物を課すのではなく、「これなら効率良くできそうだ」と思えるものに取り組み、自分の成長に合わせて目標を大きくする。そうすれば期末試験での順位はゲーム感覚になってるはずだ。
この例はあくまでも例だと思われるだろうが、しずちゃんという存在はいなかったにしろのび君は高校時代の僕だ。のび君は東京大学には受からなかったが、期末試験で1位を取った。化け物なんて存在しなかったのだ。